2016ちゃん


2015年 大晦日

「もう仕事交代か。」と、男の子の声。
「……うん。もう、逃れらない仕事だから、私、頑張る。」
女の子が答えた。

深い深い、夜。星空がはるか遠くに広がっている。
吹き付ける風は氷のように冷たい。二人はしっかりとお互いの手を握りしめた。
「心配すんなよ、お前ならやれるから。」
そう言い男の子は深く息を吸って、「Have a good year。」と呟いた。
「じゃあな」

白い息が広がる。
男の子が手を離した瞬間、遠く、新年を告げる鐘が鳴り響く。
2016年が、やって来た。

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彼女の名は「2016」。
時に選ばれし者として、1年間、下界の四季を司る仕事──「四季者」──をしている。
「四季者」というのは、春には生き物たちを目覚めさせ、夏には日差しを強くし、秋には木の葉を赤くさせ、冬には雪を降らせる、監督のような存在だ。
この言葉を誰がつけたかはわからない。だが、そう呼ばれている。
四季者の基本的な仕事内容はマニュアル冊子に書いてあるが、細かい部分は先輩の仕事を見習いながら、自分の仕事が始まる前に学び取らなければならない。

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2016年12月

「2016」と呼ばれている女の子は、1年間の「四季者」としての仕事をあと1ヶ月もせずに終わろうとしていた。

少し前までは、仕事場で下界を見守る仕事をしつつ、来年四季者となる仕事見習いの女の子、「2017」と、軽い話をしながら盛り上がっていた。
しかし、2017は仕事に不安があるのか、仕事交代、すなわち年末が近づくにつれ、不安な表情を見せるようになってきていた。
2016もまた、先輩として、複雑な仕事内容を教えきらないといけない、というプレッシャーが少しあった。
とはいえ、まあどんなに悩んでも、来るものは来るという事もお互いに分かっていたので、仕事場の雰囲気が暗くなることはなかった。

「はぁ……。2016ちゃんもあと少しでお仕事終わっちゃうんですね…。私、本当に仕事、務まるんでしょうか?」
今日もまた、口癖のように、2017は仕事場で見習いをしつつ、呟いた。
「何言ってるの、2017ちゃんったら。あなたの責任感があれば大丈夫よ。」
「うーん……。ま、まぁそうですよね!私、2016ちゃんよりは責任感は強いと思いますし!」
「ええー、何それ、私が無責任みたいじゃない。あと、あなたは後輩なんだから、『2016ちゃん』じゃなくて『2016先輩』と呼びなさいって…何度言えばわかるのかねぇ。」
2016は口を尖らせて椅子に寄り掛かる。しかし怒っている訳ではない。2017とは長い付き合いだから、彼女がこういう性格なのは知っていたし、むしろ真面目なのにちょっと失礼な言葉遣いをしてしまう2017を微笑ましく思っていた。
2017は手元にあるお茶を飲みながら、ふと思い出したように「……そうだ、2015さんも呼んで、一緒に『今年の反省会』しませんか?」と言った。
しばらく考えてから、「ああ……そうね、最近2015とも会ってないしね。」と2016も賛成した。

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「──それで、俺が反省会に呼ばれたんだな?」
ドカッと2016の仕事場のソファに男性が座った。
「そうです!2015さんお久しぶりです!」
2017が嬉しそうに2015を見つめる。

「どこがお久しぶりなのよ2017。先週2015とデートしてたばかりじゃないの。」2016が思わずツッコむ。
「えー、バレちゃってましたか…。先輩、リア充が嫌いって言ってたので、バレないようにしてたんですけど…。私、2015さんのこと好きなんです!」
2017が高らかに宣言したと同時に2015の顔は真っ赤になった。

「はぁ…そんなことより、反省会をしてるんでしょ。もう今年一年も終わっちゃうんだから、しっかり話しましょ。」呆れた顔で2016が言った。
「おっとごめん……もう2016ちゃんも役目を終えて、引き継ぎなんだよな。この前 俺が引き継ぎしたばかりの気でいたけど、時が経つのは早いもんだな。」と、本題を聞いた2015が言った。
「いやいや……私、真面目に働き過ぎて、もう疲れちゃいましたし、一年間ってかなり長かったし。」2016が疲れたジェスチャーをしながら答えた。
「真面目に働き過ぎた?何言ってるんだ2016、お前、割と仕事適当だっただろ。ちゃんと見てたんだぞ。」
「ええ…例えば?」2016がちょっと焦った表情で尋ねる。2015はちょっと考えてから言った。
「そうだな、お前、春に2012さんと喧嘩して、熊本のほうに大地震起こしただろ。」
「えっ、あっ、あれは…」
「マニュアルにも書いてあるだろ、怒りの感情が大陸プレートを動かすことがあるって。」
「その、あれはちょっとだけ頭にきて激怒しちゃっただけだし!」
必死で言い訳をする2016に、2017が「日本語おかしいですよ、先輩。」と口を挟む。
「夏には台風もあったな。」と2015が言った。「あのときは海で遊んでるリア充への恨みが原因だったな。」
「先輩は感情がちょっと激しいところがありますもんねっ。」2017もニヤニヤしながら言った。
2016はその時のことを思い出すように目を閉じた。
「何よもう。ほんとに、感情は災害に繋がっちゃうから、2017ちゃんは私みたいにならないように頑張りなさいね。」
「はーい。」
2017はそう返してから2015に「(先輩のいいところは、ツンデレで優しいところですよね)」と囁いた。
「(ほんとな。『災害の多い年』だなんて言われるけど、性格は悪くないんだよな)」2015も頷いている。
「ん?何?何の話?」
2016が戸惑った顔で二人を見た。

「ん、んん。ゴホン。そういえば、先月の地震はどうした?これも何か原因があったんじゃないのか?」と、2015がいつもの調子に戻る。
「ああ…あれは2011さんの残した地雷が爆発したらしくて。警戒はしていましたが、私の力では防ぎ切れなかったんですよ……。」
2016は残念そうにうなだれてみせた。しかしその後に2017が「その時先輩ネトゲしてましたよね」と呟いたので、2016に殴られる羽目になったのだった。
「2017、あなたも大陸プレートに落ちてる地雷には気をつけなさいよ。」
「はーい。」

「あっそうだ、2016先輩、リア充爆ぜろっていっつも言ってましたけど、下界のリア充いじめ、本当にやったんですか?」
しばらくまた話し合いをしていると、ふと2017が言った。
「また殴られたいのかな?」2016が苦笑いしつつ続ける。
「やったよ。夏は暑くしてリア充どもがくっつかないようにしたし、秋はとことん短く、冬は一気に冷やして外に出れないようにした。」
「相変わらずリア充に厳しいなぁ、2016ちゃんは…。」
2015も呆れた顔で言った。2016はいつもリア充を爆発させようとしているのだ。
「私たちもいつ爆発させられるかわかんないなぁ…ね、2015先輩っ?」
2017が嬉しそうに言ったので、またしても2016の手で制裁される羽目となった。

その後も、夜遅くまで3人で食べたり飲んだりしながら一年を振り返った。政治のこと、経済のこと、流行したこと……

「それじゃあ、そろそろ帰りますね、先輩。」「またな、2016ちゃん。」
2017と2015が帰る時間だ。2016は、二人が仕事場から出ていったのを見届けた。
暗い空からは、雪が降り始めた。
「あーあ。今年のクリスマスも大雪で台無しにしてやろうかなぁ…。」
窓から外を見ながら、2016が呟いた。

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(はあ…どうせ先輩、今頃クリスマスに大雪降らせることでも考えてるんだろうな。)
2017は、2016の仕事場を背に、乾いた空を見ながら呟いた。
眼下には、海に浮かんだ日本列島がある。クリスマスの装飾のされた街で人々が歩き、深い森で動物が眠り、街の通りの木々は葉を落としている。
あと少し。あと少しで、2017年だ。

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このページの最終更新日: 2022/09/21 20:17 ©SPLAMP